住まいの解剖図鑑
- 聖 難波
- 8月8日
- 読了時間: 2分
更新日:8月12日
著書 増田奏
P99 COLUM3 平凡な案から
「おそらく君は、課題の提出期限ギリギリまで最良の設計案を模索する人なのでしょう?」
私はすかさず、「もちろんです」と、そのときばかりは胸を張って答えた。すると建築家は次のように話すのであった。
「僕は比較的早い時期に平凡な案からスタートするのが好きなんだ。そしてそれを時間をっけてじっくりと練り上げていく。そうやって出来たものは、ギリギリまで知恵を絞った君の名案にもきっと負けないよ」
ちょっと小馬鹿にされた気がして、その場では〈フン!〉と反発した。だが、くだんの設計課題の提出期限が迫り、いよいよ具体的なかたちに描き始めなくてはならなくなると、この言葉がずしりと響いてきた。ギリギリまで必死で考え抜いたアイデアだったが、いざペンを持つとなかなかイメージするかたちに落ちていかないのである。
P142 COLUM4 方針・決心・変心
・・・いや違う、と私は思う。方針など決めるから余計に進まなくなるのだ。
木の行く手に次々と現れる分かれ道。両方とも行けば股が裂ける。だけど、設計やデザインは実際のところ、「創造的行為」である以前に「捨てる決心」である。何かを成就させるために、別の何かを潔くあきらめなければならない。ただ、それは容易なことではなかろう。
未練があるからだ。未練の中で一番深いのが「方針の堅持」である。せっかく決めた方針を覆すのは忍びない。そのためには、変心したって一向に構わない。設計とは、進展を確認しながら変転していくものなのである。
学生諸君!心配しなくてもいい。コンセプトはどうせ最後に決まるのだ。
「方針がすべてを演繹していく」あなたは学校でそう刷り込まれてきた。そもそもそれが間違いなのだが、実務上の「方針」ともなれば、学生時代のそれとはまるで重みが違う。それはとりあえずの「仮決定」に過ぎない。実務を手堅い作業の積み重ねと考えるなら、それは勘違いだ。設計実務とは学校の課題以上に、もっとずっと動的なものなのである。なのに、あなたはいまだにフットワークが悪いらしい。
ボスは先生ではないし、あなたは生徒ではない。あなたはボスの分身なのである。指示を待っているだけだから、そんなボヤキが出るのではないかな?ボスだって昔は一所員だった。あなたの気持ちは痛いほどよくわかっている。
所員諸君!くさることはない。ボスが迷えるのは、あなたがいるおかげなのだ。



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